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京都、奈良、大阪を結ぶ三角形のほぼ中央に位置する、京都府京田辺市の街はずれに、薪(たきぎ)という小さな集落がある。
「とんちの一休さん」として知られる室町時代の高僧、一休禅師が晩年を過ごした村である。
私は4歳から19歳までを、自然豊かなこの地で育った。離れて24年経った今も、故郷といえばあの村の、静かな佇まいを思い出す。
2009年6月。数年ぶりで足を踏み入れた酬恩庵一休寺(しゅうおんあんいっきゅうじ)の境内は、したたるような緑に覆われていた。
まるで、天の片隅から落ちて来た静寂が、すっぽりと収まっているような空間だ。
応仁の乱の頃、きな臭く騒々しい都会を逃れ、時の文化人たちがここに集ったという。後の千利休(せんりのきゅう)に多大な影響を与えた、茶人、村田珠光(むらたじゅこう)。能楽の中興の祖、金春禅竹(こんぱるぜんちく)。
彼らが一休と交わした禅問答が聞こえるのではないか。
そんな気がして、耳を澄ませた。
- fin -
2009.08 初稿
2016.04 改稿
『生まれ育った土地』をテーマに書いたエッセイです。
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