昔、山城(やましろ)の国(今の京都府南部)に、女ばかり五人の子供がいる貧しい一家があった。
「娘はいつか嫁に出さなあかん。一人でも男の子がおれば、あんたらの暮らしも少しは楽になったやろうに」と言う人もいたが、両親は優しい人だったので、娘たちをたいそう可愛がって育てていた。
ある年の春。一家は食料の足しにするため、筍を掘りに出かけた。すると竹薮の中に一本、茶色の皮を被ったままの筍が、天まで届くほど高く生えていた。何と珍しい、と皆が見守る中、お転婆な一番上の女の子が、筍を登って行ってしまった。
てっぺんは雲の中を突き抜けており、雲の上には雷様が住んでいた。雷様は人間のへそが大好物。
「へそを喰わせろ」と言って追いかけて来た。
急いで下に降りた女の子が、父親の持っていた鎌で、筍を切り倒したからたまらない。途中まで降りていた雷様は空中に放り出され、地面に落ちて足をくじいてしまった。
帰れなくなった雷様が、痛さと空腹で泣くのを見て、皆は可哀想に思った。そこで家に連れ帰り、乏しい食べ物を分け合った。
雷様は喜んでその家に居着いてしまい、やがて畑仕事を手伝うようになった。体も大きく力持ちな雷様のおかげで、仕事はとてもはかどった。そして秋になると、作物がたくさん実った。一家は見る見る裕福にり、末永く幸せに暮らしたという。
後日譚として、雷様が娘の一人と結婚したという話が残っているが、本当か嘘かは誰も知らない。ただ時折、村に特別大きな赤ん坊が生まれると、年寄りは決まってこう言ったそうだ。
「この子には雷様の血が混ざっとるなぁ。きっと力持ちになって、親助けをようするやろうて」
- fin -
2009.09 初稿
2016.04 改稿
『生まれ育った土地をベースに昔話を書く』をテーマに書いたフィクションです。