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化石たちの迷走

♪ 白やぎさんから お手紙ついた
 黒やぎさんたら 読まずに食べた ♪

 俺の脳内で『やぎさんゆうびん
(※注1)』の歌詞がグルグル回っている。美沙(みさ)からこんなメールが届いたからだ。
〝ごめんm(_ _)m さっきのメール読まずに消しちゃった。何か用?〟
「お前は黒やぎさんか! って俺、メールなんか送ってないし」
 いったい誰と間違えてるんだか。あーあ、新しい彼氏でも出来たか?
だいたい、些細なキッカケで口喧嘩してから3ヶ月も音沙汰なしだったくせに。最初のメールがこれかい。「よりを戻しましょ」って内容を期待した俺がバカだった。しかし何で、読まないメールを消したりしたんだ?


♪ し〜かたがないので お手紙書いた……
 と、口ずさみつつ俺はメールを打った。慣れ親しんだプッシュボタンを素早く操作する。ほとんどの学生がスマホを持つ我が大学の校内で、今や俺のガラケーは異彩を放っている。フン、『歩く化石』だと? 言いたい奴には言わせておくさ。

「あっ、ほらほら美沙! 彼から返事来たよ!」
「え……何て?」
 ヤダ、心臓がバクバクゆってる。私の携帯を手に、愛里(あいり)はニンマリ笑った。
「やったね! 〝別に用はないけど。元気かなと思って〟だって。ほらぁ、私が言った通りでしょ。彼、絶対まだ美沙のこと好きだって」
 私は携帯をひったくり、画面を見た。
「……」

ヤバイ。涙出てきそう。
「世話が焼けるなぁもう。そのツンデレ、治した方が良くない?」
「うん……ありがとね、愛里」


 ホント愛里に相談して良かった。彼と仲直りしたいけど自分から謝りたくない……ってゆうか、彼がまだ怒ってたらどうしようとか、冷たくされちゃうのが怖いとか思っちゃって。悩んでたら愛里が考えてくれたんだ。間違いメールを装って様子をうかがう作戦。
 実際、私たち二人とも、ガラケーからスマホに変えたら操作に戸惑って、必要なメール消しちゃったこともあるし。だって画面にちょっと触っただけで、おかしなことになるんだもの。
 思えばこれが彼との喧嘩の元だった。今度会ったら、「ごめんね、あなたの言うとおり、ガラケーの方が使いやすい。私もガラケーに戻したんだ」って素直に謝ろうかな。

- fin -

2015.10

『間違いメール』をテーマに書いたフィクションです。


 

【注釈説明】
 やぎさんゆうびん(※注1)
  まど・みちお 作詞 / 團伊玖磨 作曲

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