異性の好みについて。私は面食いではない……つもりだった。しかし周りは、そうは思っていなかったようだ。
結婚式の日、披露宴で初めて私の夫を見た学生時代の友人Uちゃんは、ニヤニヤ笑いを貼付けた顔で言った。
「旦那さん、ジャニーズ系やね」
そうかなぁ? と思いながらも、悪い気はしなかった。確かに私は彼に惚れていたのだ。彼の両親プラス彼の姉という家族構成の家へ、嫁に入ることを承諾するぐらい、盲目的に。
今ならわかる、恐らく誰もが危惧していただろう。その通り、結婚生活は約8年で破局を迎えた。
以来、9年ほどバツイチだった私。おかげさまで縁あって、47歳にして再婚が決まった。付き合い始めて半年ちょっとでプロポーズされ、自分でも予想外にスピーディな展開。そのため同居していた母には、いきなりの報告となり驚かれた。
「ご挨拶に伺う前に、釣書代わりに見てもらって」
と彼が渡してくれた運転免許証のコピーを、母はうつむいて、長い間じ〜っと見つめていた。かと思うと一言。
「あんた、今度は中身で選んだんやなぁ」
……母よ。頼むから、それを彼には言わないでね。確かに彼の見た目は、〝ダーリン〟というより〝ムーミン〟だけど。
幸い母と彼との対面は無事に終わり、昨年12月に入籍。彼と二人で暮らし始めてから、そろそろ10ヶ月目に入る。
彼は今年57歳。お互いこれまで一人で好き勝手してきたのだから、ぶつかることもあるが、今のところ夫婦仲は良好だと思う。初婚の際には夢見ても叶わなかった水入らずの生活。前とは格段に自由度が高いことが、私にはとても嬉しい。
今年6月、学生時代の友人4人と、2泊3日の小旅行へ出かけた。皆、私の〝一回目〟を知る仲である。私は関西人として、母の『あの一言』を喋らずにはいられなかった。もちろん爆笑の渦となり、ウケだけを狙っていた私は大満足。しかし、ひとしきり笑った後、Uちゃんがポツリと言った。
「そっかー。それはお母さん、親心から思わず出た言葉やったんやろうね」
予期せぬ動揺に胸を突かれ、私は返事ができなかった。
彼女のお母さんが女手一つでUちゃんを育て、7年前に亡くなったことを私は知っている。
……母よ、ゴメン。今まで心配かけました。
そしてUちゃん、気づかせてくれてありがとう。ずっと友達でいてくれてありがとう。
母とは離れて暮らしているが、ほぼ毎日電話をかけ、私たち夫婦の日常をおもしろ可笑しく語って聞かせている。そんな親孝行をする時間の余裕ができたのも、彼=ムーミンのおかげ。ネタにして笑っていることは本人には内緒だけれど、密かに感謝する日々である。
- fin -
2014.10
『名言』をテーマに書いたエッセイです。